殺菌消毒の基礎

殺菌消毒の基礎

問題です。
次の薬剤のうち、どれが最も確実に菌を殺すことができるでしょうか。

A:最高の殺菌剤
B:最適な滅菌法
C:最強の消毒液

答えは、Bです。
滅菌は菌を100万分の1以下にすると定義されているので、殺菌後より消毒後より、滅菌後のほうが安全であると考えられるからです。

「殺菌、滅菌、消毒」は意味が似ているように感じるかもしれませんが、医療現場や研究機関など厳格に菌が管理されている場所では、明確に区別されています。
この記事では、この3つの用語を解説するとともに、「除菌、抗菌、静菌」の意味も紹介します。

言葉の意味を正しく知ろう

それぞれの用語を詳しく説明する前に、短い文で「殺菌、滅菌、消毒、除菌、抗菌、静菌」を紹介します。まずは、大まかな違いをつかんでください。

  • 殺菌:菌を殺す行為のこと。殺した程度は考慮しない。
  • 滅菌:無菌に近づけること。菌が100万分の1以下になった状態。
  • 消毒:菌を害のない程度まで減らすこと。必ずしも菌の全滅を目指さない。
  • 静菌:菌の増殖が阻害された状態。これのみ「結果」を指す。

医療現場で重要になるのはこの4つです。
以下の2つは、生活用品などによく使われる言葉です。

  • 除菌:菌の数を減らすこと。殺菌できなくても、ぬぐって菌が減れば除菌になる。
  • 抗菌:菌が住みにくい環境をつくること。菌の除去や殺すことは考慮しない。

殺菌、滅菌、消毒はいわば医療用語なので、本来は軽々しく使う言葉ではありません。それで、生活用品をPRするときに「殺菌、消毒、滅菌」の意味を持たせたいときに「除菌、抗菌」という言葉を使うことが多いわけです。

定義の出典について

殺菌や滅菌などの言葉の定義は、さまざまなサイトやさまざまな機関が行っていますが、この記事では、次の2つの論文で紹介されているものを使います。

「消毒薬、その実践と基礎知識」(山口諒・高山和郎、東京大学医学部附属病院薬剤部)」

「殺菌、静菌、除菌などの用語解説」(芝崎勲、大阪大学工学部)」

ただし、これらの論文は専門家が読むことを想定しているので、難解な用語が使われています。そこで、この記事では極力専門用語を使わず、平易な言葉で解説していきます。

殺菌とは

殺菌は菌を殺す行為を指す言葉なので、菌をいくつ殺したかは、この言葉からはわかりません。極端な例を用いれば、10%の菌を殺しただけでも「殺菌した」といえます。
「菌をいくつ殺せたか」という意味を持っている言葉は、次に紹介する消毒と滅菌です。

菌を徹底的に死滅させる殺菌のことを滅菌といい、滅菌はできなくても菌の悪影響を除去できることを消毒といいます。
概念図で示すとこのようになります。

殺菌
滅菌消毒
徹底的な殺菌菌の悪影響を除去した殺菌

滅菌とは

滅菌とは

滅菌とは「滅菌させたい対象物のなかの菌などの微生物を殺滅、または除去すること」と定義されます。つまり、菌がいなくなる状態のことです。
ただ、菌をゼロにすることは現実的ではないので、医薬品の品質規格書である「日本薬局方*1」では、菌を100万分の1にできたら「滅菌した」といえる、と定めています。

*1) 日本薬局方(にほんやっきょくほう)
医薬品の性状及び品質の適正を図るため、医薬品医療機器等法第41条に基づき、薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて厚生労働大臣が定め公示する、医薬品の規格基準書。

滅菌が必要なシーンとは

滅菌はその徹底ぶりから、実行するにはコストと労力がかかります。そのため、滅菌が必要なシーンはかなり限られます。
血管のなかに管を通す治療器具「カテーテル」は、滅菌状態でないとなりません。同様に、人の体や内臓を切る電気メスや、体内に埋め込むペースメーカーも、滅菌が求められます。

粘膜や傷口に接触するものは、滅菌が望ましいものの、もう少し「程度」を緩めても大丈夫です。滅菌より程度が低い状態、つまり、滅菌より残る菌が多い状態のことを「高水準消毒」といいます。
呼吸器を治療する器具や麻酔器具、胃の中に挿入する内視鏡などは、滅菌が望ましいものの、高水準消毒でも許されるものです。

消毒とは

消毒とは

菌をゼロにすることは現実的ではありませんが、菌を100万分の1にまで滅菌することも、かなり困難な仕事です。
しかも、現実社会では、滅菌まで徹底しなくても人々の健康と安全を保つことができます。人と菌が共存できるまで菌を減らせば、「それでよし」とする考え方のほうが合理的な場合があります。
そこで消毒という考え方が有効になります。

消毒とは、菌を除去、死滅、無害化して、菌を減らすことです。
消毒には「何分の1まで減らす」という目標値はありません。その代わり、害が出ないようになるまで減らさないと、消毒とはいえません。
消毒したはずなのに菌が繁殖して人の健康を害すれば、それは「消毒失敗」といわれるでしょう。また、菌の威力が弱ければ、菌を少し減らしただけで「消毒できた」といえます。

消毒が必要なシーンとは

病院で使う、便器、血圧計のカフ(腕に巻き付ける器具)、聴診器、松葉づえ、ベッドの柵などは、滅菌までは必要ありませんが、消毒しておく必要があります。これらの消毒のレベルは「低水準」で構わないとされています。

先ほど、高水準消毒が必要なものとして、呼吸器を治療する器具、麻酔器具、胃の中に挿入する内視鏡を紹介しましたが、消毒の水準の高さは菌に侵されるリスクの大きさに比例します。

便器に少しくらいの菌が付着していても、臀部や太ももの皮膚につくくらいなので、大きな被害は受けません。
しかし、内視鏡に菌がついていれば、大事に至ってしまうかもしれません。
それで便器より内視鏡のほうが、消毒の水準が高くなります。

ただ、胃や小腸や大腸などの消化管は、少しの菌が入ったからといって健康被害を引き起こすことはありません。例えば、子供がオモチャなどの異物を誤って飲み込んでも、何も起こらず大便と一緒に出てきます。
それで内視鏡は、高水準消毒は必要でも、滅菌まで必要ない場合があるわけです。

静菌とは

静菌とは

静菌とは、菌の増殖が抑制された状態のことです。静菌以外の5つの言葉(殺菌、滅菌、消毒、除菌、抗菌)は、菌との闘いを表現していますが、静菌だけは「結果の状態」を表現しています。

また、静菌には「菌が増殖可能な環境下にあるのに(増殖が抑制された)」というニュアンスがあります。さらに、菌の集団があり、一部は増殖を続けているが、大半は増殖を止めていて、全体としては落ち着ている場合も、静菌と呼びます。
そのため、静菌をもたらしている条件が狂うと、菌は再び増殖を開始するかもしれません。その点が、滅菌や消毒とは異なります。

除菌とは

除菌とは

除菌とは、菌を排除して、菌の数を減らすことをいいます。例えば、手を洗って菌を流せば、それも除菌です。また、濾過(ろか)によって菌の侵入を防いでも除菌です。
必ずしも菌を殺しているわけではない点が、殺菌と異なります。

ピンからキリまでの除菌商品

これまで説明した「殺菌」「滅菌」「消毒」は、その言葉が持つ重要度の高さから薬機法(旧薬事)によって、その使用を非常に厳しく制限されています。
また、「医療機器」として認められた商品でない場合も、一切その言葉を使用することはできません。
そのため、「除菌」という言葉が使われるわけですが、この「除菌」という言葉が使われている商品にはピンからキリまであるのが実情です。
たとえば、オゾン発生器のように本来は殺菌・消毒レベルの性能がありながらも、法令遵守のため「除菌」という言葉が使われていることもありますし、逆に0.1%しか菌を減らしていない「除菌仕様」などと謳われている除菌グッズも数多くあります。

抗菌とは

抗菌は、冒頭で紹介した2つの論文で紹介されていません。医療用語としては、重要度が高くない言葉といえます。
ただ「抗菌商品」は決していい加減なものではありません。経済産業省は「抗菌加工製品ガイドライン」を設けていて、抗菌を「製品の表面における細菌の増殖を抑制する」加工と定義しています。

例えば「抗菌繊維」と呼ばれる生地がありますが、これは、ポリエステル繊維に、抗菌剤を含ませた「バインダー」というコーティングを施してつくっています。
また、銅、銀、チタンといった金属には、細菌が嫌う性質が備わっています。これらの金属を製品に含ませれば「抗菌作用あり」と謳うことができます。

まとめ~オゾンは「滅菌」ではなく「殺菌」だが、それでもすごい

オゾンが持つ作用は「滅菌」ではなく「殺菌」や「消毒」です。
このような説明を、滅菌と殺菌の意味を知ったあとに聞くと、「さすがのオゾンも、滅菌する力まではないのか」と感じるかもしれませんが、そうではありません。

滅菌には、「本当に」徹底した方法を使います。
高圧蒸気滅菌は、滅菌する対象物を、134度の蒸気に10分間さらします。
乾熱滅菌は、対象物を乾燥状態に置いて、さらに200度の空気に1時間さらします。
火炎滅菌は、火で対象物をあぶって菌を殺します。
これらの滅菌方法以外で滅菌製品をつくるには、無菌状態の工場に無菌の材料を持ち込んで、製造から梱包まで仕上げなければなりません。
菌を100万分の1にする滅菌は、ここまでしないとなりません。
ここまで徹底すると、ほとんどの対象物は壊れたり劣化したりします。もしくは、製造に莫大なコストがかかります。

そのため、殺菌や消毒で十分役割を果たせるのであれば、わざわざ滅菌までする必要はありません。
そのように考えると、簡単かつ確実に殺菌・消毒できるオゾンは「さすが」といえます。